『KUBO』の個人的評価
ワタシ
狂気のクリエイション!!
まずはこの素晴らしすぎる映像に触れないわけにはいかない。「トイ・ストーリー3」や「ヒックとドラゴン」を見た時のような衝撃を受けた。 あまりの滑らかさにCGかと思った人多いはず。
「ストップモーション」だから作った人形を一コマずつ手で動かして撮っていく…嘘だろ? 下に貼ったメイキング見れば一目瞭然だけど、はい、狂ってますね。 途方もない作業量ですよ。一週間で平均3.31秒しか作れない… 映画が始まって開始3分でこの作品に関わったすべてのクリエーターにひれ伏した。
信じられない。何人がどれだけの時間かけて作られているんだろう。 ただ時間をかけただけではなくて凄まじいクオリティとセンス。最高でした。
やっぱり 神は細部に宿る のかな。
人形を動かして撮っていくわけだから、当然実物感だったり存在感がある。照明を当ててちゃんと影が落ちる… なーーーんて物知り顔でブログに書いてもこれ、実際作ること考えただけでげんなりするし、やりきったことが凄い。凄すぎる。 もうダメだ。同じクリエーターとして敬服いたします。参った。
制作費も人件費も物凄いだろうし、それでも商業的にちゃんとリターン出てるんでしょ?やっぱりハリウッド層厚いし環境いいな。
日本は現場にはひたすらお金が回ってこないようになってるしこれからどんどん差をつけられてしまうかもね。 一瞬で映像美に打ちのめされたんだけど、映画を見終わったら、違うことでまた打ちのめされた。 それは日本を舞台にした映画だってこと。
- 日本風でもなく、ふつうの日本人よりも日本の精神性を理解している
- 作品に込められたテーマやコンセプトが説教臭くなく極上の冒険活劇
本当にヤラれたし、尊敬した。クリエーターは絶対に見るべし。いろんな意味で刺激になる。
いったいどんなリサーチをすればここまで深く理解することができるのか? この「ライカ」の人たちはどういうことを考えているのか気になった。
日本文化へのリスペクトと理解
「この作品はライカのスタッフ全員からの日本へのラブレターなんです。」 ーブラッド・シフ(アニメーションスーパーバイザー)
なるほど、そういうことなら受け取った。まぁ日本が舞台なのに主要国で一番公開遅かったんですけどね。ここでも国力の低下の影響が…。
そんなことはどうでもいいんだけど、監督のトラヴィス・ナイトは8歳で初来日してからも何度も訪日して芸術と文化を愛してきた。 中でも黒沢明監督の影響が一番大きかったと。
「彼の構成、カット、動き、照明、シルエットを、本作のミューズとして取り込もうとした。でも映画の作り方だけじゃない。何を物語っているかなんだ」
そして宮崎駿へのリスペクトも。
「彼はまた別の意味でこの映画に影響を与えたよ。宮崎は自身が魅了されるヨーロッパ的なものを統合して、自分のアートの中に織り込んでいる。ほとんど印象的主義的な取り込み方で、それが作品の中心的テーマになっている。宮崎がヨーロッパに対して行ったことを、僕は日本に対してやってみたかったんだ。僕にとって本当に重要な場所と文化についての、僕なりの解釈を表現したかったんだよ」。
おぉ、そういうことですか。解説はいりませんね。腑に落ちた。
自分の愛した異文化を、自分の中に取り込んで、自分なりに解釈して表現する。
これからの創作活動の指針としよう。いつでもこの姿勢を忘れないように。
いったいどんなレベルの調査したんだ?
信じられない。日本人以外で、いや日本人以外だから日本文化を冷静に捉えられたのか?それが見終わった後の一番の印象だったし、作り上げたクリエーター達を心底尊敬した部分だ。 もちろん日本凄い!日本文化は唯一無二、日本人以外は深いところでは理解出来ない!なんて言うつもりはサラサラないんだけど、このレベルの理解や解釈、物語への落とし込み方は尋常じゃない。気になったからメモメモ。
- 英語字幕翻訳や通訳の後藤太郎氏をコンサルタントに採用
- 葛飾北斎・歌川国芳・斎藤清らの版画
- 盆踊りの振り付けには90歳のサホミ・タチバナが指導
- 様々な分野から熟練の日本人アーティストを招く
- イッセイ・ミヤケの有名なプリーツや折りの技術を研究(衣装デザインのチーフ、デボラ・クック)
- 日本が舞台のドキュメンタリー作品をいくつも鑑賞(照明、ディーン・ホームズ)
- ポートランド美術館で侍の鎧をリサーチ(人形チーム)
- クボの眼帯は伊達政宗、柳生十兵衛インスパイア
- 闇の姉妹は「子連れ狼」弁天来3兄弟インスパイア
うん。おそらくここに挙げた以外にも果てしなくリサーチしているだろうし、個々のクリエイターの他の文化や創作物への理解力も高いんだろう。
自分が他の文化圏をテーマに作品を作るときにここまで深く理解して、作品に落とし込められるのか? 洋服のデザインや仕草、建造物のディティールとかの外見的なデザインだけでなく、精神性なものを咀嚼して提示できるのか?
そう考えたらこの「ライカ」スタジオのクリエーターたちのやってのけたことは凄いの一言ではすまされない。愛だろ、愛。
「この作品はライカのスタッフ全員からの日本へのラブレターなんです。」 ーブラッド・シフ(アニメーションスーパーバイザー)
二回目(笑)
物語を語り継げ
「物語を語り継ぐ」ことが大きなテーマになっているし、その物語を作ってるというメタ構造にもなっている。 完全な月の世界から不完全な地上に降り立った母からクボが語り継いでいく。 母から継いだ紙芝居の物語を、クボが終わらせる。
「永遠に終わらない物語なんてないんだよ」 あらゆる物語が作品の中に現れる。母と子、父と子、男と逃げた姉妹への嫉妬、月の帝が許される話… 不完全だからこそ愛おしい、終わるからこそ素晴らしい。永遠に変わらない完全な世界、そんなものは嘘だ。終わるなら語り継げ。物語を語り継げ。
序盤のセリフで「もっと語りあえ」っていうのも明示しているんだろう。 このブログ書いてるときに思い出した。
永遠にずっと変わらないなんて 燃えないゴミと一緒じゃないか
不死身の花|甲本ヒロト(ハイロウズ)
エンドロールの謝辞で語る監督の二本の弦への想い。私たち自身が自然と語り継いでいるんだ。
まとめ
- 途方もない作業量から生み出された狂気の映像美
- 「物語を継ぐ」という物語
- ハラハラドキドキの和風ファンタジー冒険活劇
- 日本文化へのリスペクトと深い理解
- 自分の愛した異文化を、自分の中に取り込んで、自分なりに解釈して表現する
- クリエーターの姿勢と矜持に感動
最後に:ライカに脱帽。日本が舞台のこんな素敵な作品を作ってくれてありがとう。 この作品を観て感動したクリエーターは、「自分だけの物語を作れ。妥協なく、愛したものをふんだんに取り込んで表現しろよ、文化や創造を語り継げ」って言われてる気がした。 俺たちクリエーターは世界の子供。異文化もなにも関係ない、取り込め、生み出せ、語り継げ‼
エンディング曲
関連リンク
・↓公式サイト。ここを見れば制作の裏に隠された数々の狂気を見ることができる。
・二ページ目のメイキング特集は必見
・批評・感想
参考
『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』紹介マンガ沼の見える街
参考
『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』特別座談会!闇の姉妹の魅力やストップモーションアニメの意義を大いに語る!シネマズ
参考
『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』は全日本人が必見の大傑作!その素晴らしさを本気で語る!シネマズ
クボ、もう一つ感じていた『子連れ狼』の影響に関してはこないだGAGAの宣伝さんに伺ったところ、製作陣(監督か脚本家か、失念)が闇の姉妹に『子連れ狼 三途の川の乳母車』の弁天来三兄弟の影響がある事を認めているとの事。「ですよね!!ですよねええ!!」と闇の姉妹への愛が深まりました pic.twitter.com/F04REJ0bkS
— 楠野一郎(プロペラ犬) (@kusunopropeller) 2017年12月6日