イズミケイタ
すんごい楽しみにしてた。なんかカッコいい風景の浮世絵の人だなって。異国の風景で浮世絵⁉みたいな。でも昔はあんまり吉田博の書籍もなかったんですよ。
ホントここ最近再評価かなにかは知らないけど関連書籍も増えてきたり再版されたりで、この展覧会‼行くしかない。
吉田博ってどんなひと?
「絵の鬼」と呼ばれ、水彩で、油彩で、木版画で世界に挑み続けた画人。
明治から昭和にかけて風景画の第一人者として活躍した吉田博(1876-1950)の生誕140年を記念する回顧展です。
最初に知ったのがアウトドアブランドのパタゴニア関連でこれ。アウトドア関連の本読んでたらこの版画が出てきて吉田博を知った。
世界を面でとらえるか輪郭線でとらえるか
個人的には今の漫画にしてもアメコミにしてもイラストにしても写実的なのは好みではない。 写真や3Dがあるのにねぇ?ってかんじで。
「有体に描きては興無きものなり」*1
って昔の画家(江戸時代の浮世絵師)も言ってますしね。興味の対象にフォーカスしてどんどんデフォルメして描いてあるのが好み。
やっぱり面でとらえるより線でとらえるほうがしっくりくる。漫画やセルアニメの国だし。
だからかずっと浮世絵は好きだったんです北斎、国芳、月岡芳年とか。みんな好きですよね?
浮世絵にしても漫画にしても世界を線で描き出していくから。共通してるところはある。
吉田は明らかに毛色が違うんですね。 油彩を学んだからなのか、西洋の描き方が入ってきたからなのかはわかないけど今までの版画とは違いデフォルメがそんなにない。
あとは色数の多さ。普通の版画の何倍もの摺りの回数、その数 最高で96!そうすることによってあの空気感やグラデーションを表現していたんだと実感。
吉田博の木版画の特徴は面や線というより色かなと。輪郭線に黒は少なかったな。輪郭線だけで何色もあった。これは真似してみよう。
現在のイラストは浮世絵の隔世遺伝!?
吉田の絵が好きというのもあるが絶対に絵の参考になると思って足を運んだ。
特にカラー絵の時の塗りの参考にしようと必死に観察。版画の摺り回数をレイヤー数に変換して手順を想像しながら観た。同じ絵でもやはり色調整でずいぶん印象が変わる。
同じ原画で摺り色を変えることによって数種類の版画を作り時間の経過や色の移り変わりも表現している。
現在のイラストの描き方は「浮世絵の隔世遺伝」とあきまんさんはつぶやいていたけどこういうことかな。 詳しくは以下
参考 あきまん氏が漫画家・村田雄介氏に語った「天才ジャンプ作家がデジタル絵に移行する場合の問題点」togetter
ソシャゲのイラストが色レイヤーをいじったり差分で変化つけたイラストを作りますよね?それが浮世絵の隔世遺伝ってこと。
もちろんアナログとデジタルの話ではなくて、純粋に描き方の手順の類似ということです。
実際に鑑賞して…絶句!!
結論は、最高でしたね。とにかく素敵で。 遠目で見たら「うおおぉお めっちゃ迫力ある! 写真?」みたいな感じなのに近くでみたらあんまりリアルってわけでもない。明度や彩度がばっちりなんだろう。
観察眼も再現する技量も本当にすごいものがある。
もちろん彫り師や摺り師の技量もすごい、これは集団作業で新宿に自分たちの工房持っていたからでしょう。 集団作業のために、職人さんたちのスキルアップと吉田博が直接自分で指導なりチェックするための工房だったんじゃないかな。
自然を崇拝していた「山の作家」
吉田は登山が好きで山の絵を好んで描いた。何日もキャンプ張って山を見つめていたんだろうな。そういうところもかっこいい。大量の画材もって登山とか考えただけで吐き気するけど。若いころから山にこもってたからこそあんな素敵な雲海が描けるんだろう。
今だったらiPad持ってキャンプ張って絵を描くのかな。kindle持って行って読書もいいな。うおおお考えただけでたまらん。ULハイキング*2でサクッと山登り。
そして絵を描く。最高じゃないか。時代は自然です。BACK TO NATURE!!まだバックパック買っただけで靴も無いんだなぁ。いつになることやら。憧れる。
そして次のスタイル、新しい木版画へ
この展覧会のメインである木版画は49歳の時に始めた。
いままでのオリエンタリズムなモチーフはダメだ、ぬるい、新しい日本の木版画を俺が作ってやる!! と。
最高すぎる。もうね右見ても左見ても傑作なの。徹底してリアルにこだわったらしい。まず水面や雲海をあそこまで木版画で表現できることが凄すぎる。水面や雲海を手彫りで描こうとも思えない…。徹底的にリアルに木版画で風景を描くことによって叙情性がにじみ出てきてる。
写真やCGのように描かなくてもこんなにも表現できるんだ。
そりゃ手彫りの木版画で写実を追及しても限界あるし、そもそも吉田博はそんなとこ目指してないだろうけど。でもその取捨選択した写実が真に迫るというかなんというか。
ちょっと伝記など読んでから追記します。
リアルよりリアリティ
3D で実写と見間違うばかりにリアルな風景を作り上げたらここまで感動するかな?
今はまだコンピューターの技術的が足りないからなのか。 モニターや画面でみるのと印刷でナマで見る違いもあるんだろうけど。
3DやCGも将来的にはどうなるかわからないよね。ゼルダも素晴らしかったし。
これはグラフィックもゲーム性も素晴らしかった。
モニターのデメリットもVRとかで没入すればメリットになるし。世界に入れるのはゲームの強み。音楽もあるし。臨場感は絵画よりも有利だろう。ただ感情を揺さぶったり、なにかを想起させたりする力はわからないですね。
いきなり木版画とゲーム比べんなって話ですけど。グラフィックの話ね。
でも僕はグラフィックのリアルさはどうでもいいと思ってる。ゲームならゲーム性、漫画なら面白さ。いつもどうやって省略するか、余白をつくるか考えてる。ラクしたいわけじゃないんだけど(笑)。
白いコマにババーンって黒い絵(キャラクター、線)があるのがかっこいいんだ。逆もまたしかり。
アメコミのフルカラーでリアルなタッチよりも、個人的には日本のモノクロの漫画が好き。だけど最近のスクリーントーンぬりたぐって画面全体がグレーな印象のスタイルも苦手だ。
白と黒のバランスのとれた絵は印象が強い。それには黒のベタが重要。そして余白は大事、すごい大事。
一枚絵の木版画からゲームグラフィック、そして漫画へとつなげてみたけど強引だったかな。
リアルよりリアリティ。結局好みの部分も大きいし最終的にはクリエーターが伝える手段はなんでもいい。
ちょっとここら辺の話題はまた改めて考えてブログに書こうと思う。
リアルとデフォルメ、書き込みと余白、モノクロとカラー、2Dと3D、世界に入れるゲームと入れないマンガ……要素が多すぎて。
吉田博の展覧会のレビューに書くものでもないし。
館内上映video
入場からエレベーター待ちになるほど展覧会は大盛況だった。
個人的に凄くいいなと思ったことがあって、館内で上映してた3分ほどの映像がYouTubeにアップされていること。
これはいいことですよね、何年かしたら止めるとかじゃなくてずっとアップしといて欲しいな。
エンドマークを入れることの大切さ
時系列に沿って作品が並べられているので作家のスタイルの変遷が分かりやすかった。もちろんここで鑑賞できる作品がすべてではないだろうけどかなりの数が展覧されている。
デッサン、水彩、油彩、そして木版画など。ちゃんと作品を終わらせて次のスタイルに向かっていってるんですよね。成長しながら。
で途中で飽きて取ってつけたように新しいことに興味がわいて(逃げて)放り出す。
そして一つの作品をいつまでたっても終わらせることができない。なので失敗や反省点が見つからず先に進めない。……あ、僕のことか。
ここから「山月記」の李徴の話*5にいってもいいけど長くなるからやめとく。
個人的にどんどんスタイルを変えていく作家は好きです。ピカソや、ルドンみたいに。
関連リンク
この展覧会レポートは素晴らしかった。
参考 ダイアナ妃も魅了した「絵の鬼」に迫る 『生誕140年 吉田博展』をレポートSPICE
浮世絵の摺りについてよくわかる。
参考 吉田博展:あの空気感はいかにして版画で描きだしたのか?コロコロのアート 見て歩記&調べ歩記
関連書籍
フライヤー・チケット
*1:杉浦日向子「江戸へようこそ (ちくま文庫)」p.131
*2:ウルトラライト。軽量装備のハイキング
*3:150段グサッとくる『徒然草』現代語訳。700年前に“達人への道”がつづられていた – ViRATES [バイレーツ]
*4:若きサムライのために (文春文庫)か 不道徳教育講座 (角川文庫)に書いてあった気がする、多分。もしかしたら筒井康隆かも。
*5:もちろん「臆病な自尊心と尊大な羞恥心」